2024-02-19 長田 弘 まだ失われていないもの何かがちがってくる。風があつまってくる。陽射しがあつまってきて、やわらかな影がそこにあつまる。見えないものがあつまってくる。ふと、騒がしさが遠のいて、そこから、音もなく明るい塵があつまってくる。すべてが、そこにあつまってくる。花のまわりにあつまってくる。ふしぎだ、花は。すべてを、花のまわりにあつめる。匂いのように、時間が蜜のように、沈黙があつまってくる。ことばをもたない真実がある。空の色、季節の息があつまってくる。花がそこにある。それだけでちがってくる。ひとはもっと素直に生きていいのだ。 詩集「黙された言葉」より