2024-03-31 「おしまいの断片」 たとえそれでも、君はやっぱり思うのかな、この人生における望みは果たしたと?果たしたとも。それで、君はいったい何を望んだのだろう?それは、自らを愛されるものと呼ぶこと、自らをこの世界にあって 愛されるものと感じること。レイモンド・カーヴァー 村上春樹訳
2024-02-19 長田 弘 まだ失われていないもの何かがちがってくる。風があつまってくる。陽射しがあつまってきて、やわらかな影がそこにあつまる。見えないものがあつまってくる。ふと、騒がしさが遠のいて、そこから、音もなく明るい塵があつまってくる。すべてが、そこにあつまってくる。花のまわりにあつまってくる。ふしぎだ、花は。すべてを、花のまわりにあつめる。匂いのように、時間が蜜のように、沈黙があつまってくる。ことばをもたない真実がある。空の色、季節の息があつまってくる。花がそこにある。それだけでちがってくる。ひとはもっと素直に生きていいのだ。 詩集「黙された言葉」より