僕はロバが好きだ

ロバ?

 

僕はロバが好きだ  フランシス・ジャム  倉田清訳

 

柊(ひいらぎ)の生垣沿いに歩いてゆく

優しいロバが僕は好きだ。

 

ロバは蜜蜂が怖いので

しきりと耳をふり動かす。

 

ロバは貧しい人たちや

燕麦(からすむぎ)のいっぱいはいった袋を運ぶ。

 

溝のそばへくると

ロバはこきざみな歩みでゆく。

 

僕の恋人はロバを馬鹿だと思っている、

ロバが詩人だから。

 

ロバはいつも思案顔。

その眼はビロードでできている。

 

優しい心の乙女よ、

君にもロバの優しさはない。

 

なぜなら 青空の心優しいロバは

いつも神さまのみ前にいるのだから。

 

それなのに ロバは惨めに 疲れはて

家畜小屋の中にいる、

 

哀れな小さな足を

すっかり疲れさせたので。

 

ロバは自分の義務(つとめ)を果たしたのだ

夜明け方から日暮れまで。

 

乙女よ、 君は何をしたの?

君は針仕事をしただろう…

 

でも ロバは怪我をした

虻(あぶ)にさされたのだ。

 

ロバは気の毒なくらい

沢山の仕事をしたのだ。

 

乙女よ、 君は何を食べたの?

君は桜実(さくらんぼ)を食べただろう。

 

ロバは燕麦は食べなかった

飼主が貧しいので。

 

ロバは古縄をしゃぶって

暗い隅へいって眠ってしまった…

 

乙女よ、君の心の縄には 

こんな優しい味はありはせぬ。

 

柊の生垣沿いに

歩いてゆくロバは優しい。

 

わたしの心は深い恨みをもっている。

この言葉は君の気に入るだろう。

 

ねえ、優しい乙女よ、 言っておくれ

僕がいま 泣いているのか 笑っているのか?

 

あの年老いたロバを訪ねていって

きかせてやっておくれ、

 

僕の心もあのロバのように

朝(あした)には街道をゆくのだと。

 

愛しい乙女よ ロバに尋ねるがいい、

僕がいま 泣いているのか 笑っているのか?

 

ロバは、返事をしないだろう

そして、陰の中を歩むだろう。

 

優しさに満ちあふれて

花咲きこぼれる道の上を。

 

 

※卒論のテーマに選ぶほどに母が好きだった詩です。

堀口大学の訳で有名ですが、この方の訳を気に入っていました。